Safeologyとは?

 Safeologyとは、Safe(安心)と-ology(学)を結び付けた造語です。日本語になおすと「安心学」と考えることができます。

 これはSafeology研究所代表の山川が、内発的動機づけから学ぶ自律的学習者を如何に育てるかという研究の中で、自分の中の「安心」がその基礎にあるという仮説を立てました。そして、教育分野で「安心」をデザインすることが自律的学習者の形成につながるのではないかというビジョンからSafeologyという概念を創りました。

 さらに、この自分の中にある「安心」は、医療分野の「健康」やビジネス分野の「創造性」にもつながっていると考えており、Safeology研究所は、教育・医療・ビジネス分野で、Safeologyを応用した、自分の中に「安心」を創るという視点から講座等を提供していく予定です。

Safeologyの概念図

図1 Safeology概念図

 Safeologyの概念図を図1に示しました。図1でSecure Base(安全基地)が自分の中にある「安心」に相当しています。Secure Baseというのは、ボウルビーらが提唱する愛着理論(Attachment Theory)で、幼少期に育まれ、その後、対人関係の基礎となるとされる、人の心の中にある安心の源です。

 愛着理論によると、Secure Baseは対人関係(共感)でしか育まれないとされていますが、Safeologyでは、それを「観想」と「創話」によっても育むことができるのではないか、という仮説をたてています。以下、「共感」「観想」「創話」の説明を行います。

共感(Compassion)

 安心を育むための第一の要素です。以前は「信頼」としていた要素です。安心があれば信頼が創れますが、逆に、信頼関係があると安心も形成されることが知られています。Safeology研究所では、主に「対話」を使って信頼関係を育み、個人の中に安心を創り出すことを行っています。そして、対話や信頼のためにできる私たちのアクションとして「共感」が重要だと考え、最初の要素は「共感」としました。

 信頼関係ができ、個人の中に安心が形成されると何が起こるでしょうか。アドラー心理学では「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」といっていますが、対人関係で信頼ができ、安心が形成されると悩みが軽くなることが考えられます。そして、グループやチームで何か一つのことをする上での、心理的安全性(Psychological Safety)が高まると考えられます。心理的安全性は、ビジネス分野でチームのパフォーマンスを向上するキーワードとして現在注目されている考え方です。教育分野でもPBL(Project-Based Learning)やアクティブラーニングが重視されつつありますが、心理的安全性は、そこでも重要な視点の一つと考えられます。

 安心と共感を結び付ける理論的枠組みは、心理学者ボウルビーの愛着理論です。Safeologyの考え方の出発点になった理論です。図1にある「自分と他者」というのは、共感は他者のみならず自分にも向けることにより初めて安心にアプローチできるという考え方を示しています。

観想(Contemplation)

 安心を育むための第二の要素です。以前は「内省」としていた要素です。内省だとどうしても頭の中の話だと思われがちなので、第二要素は身体を観ることも含んでいる「観想」に変更しました。観想は、心(認知)と身体の両方に注意を向けることと考えています。Safeology研究所では、マインドフルネス、NVC(Non-Violent Communication)、ヨーガ等を使い、心と身体の両方の観察を行います。

 心と身体の観想ができるとどうなるのでしょうか。身体へ注意を向けることは「今、ここ」に自分を引き留める効果があります。情動は身体と密接に結びついているので、身体の観察は自分の中におこる情動をキャッチすることにもつながります。心(認知)に注意を向けることは「自分の中にある枠」を意識にあげることにつながります。この枠が苦しみの原因であることを考えると、心の観察により、苦しみが和らぐ可能性があります。心と身体の観想はまったく別物ではなく、地続きと考えられます。

 観想と安心を結び付ける理論的背景は、神経学者ポージェスのポリヴェーガル理論です。これは、迷走神経に関する理論ですが、私たちが自分で安心だと感じる度合いにより、腹側迷走神経(安心な場合:社会化)、交感神経(危険な場合:可動化)、背側迷走神経(生命に関わるような危機の場合:不動化)と働く自律神経系を自動的に切り替えて対処していると提唱しています。臨床の専門家によると、このとき、認知(心)だけでなく、身体に記憶が重要になってきているようです。そのため、安心にアクセスするための第二の要素は心だけでなく身体も観察する「観想」としました。

 この要素に関係する点として「探究と創造」があがっています。探究は観想として自分の心と身体の中で起こってくることを探究するという点で、創造はそういった探究が創造に結び付いていくという意味で図1にはあげてあります。

創話(Creating story)

 安心を育むための第三の要素です。以前は「意味」としていた要素です。人生の意味や源を把握すると安心が形成されるというのは一見結びつかないようにも見えます。ジョージ・コーリーサーらが提唱するセキュアベース・リーダーシップによると、目標がセキュアベースになるという仮説をたてています。目標とは行く先のことですが、その目標に行く原動力となるのは、人生の意味や源です。そのためSafeologyでは、人生の意味を安心を育むための第三の要素になると考えました。

 そして人生の意味とは、自分がなぜ生きているかという自分にとっての人生の物語をつくることだろうと考え「安心」にアプローチするための3つ目の要素として「創話」という造語を創りました。創話とは、自分の人生の物語をつくるだけでなく、世界がどうあるのかという物語も自分なりに創るということを含んでいます。普段私たちは、外から与えられた物語を消費して生活していますが、創話とは、そこから内外の物語を自分で創る出すことへの転換をするということを目指しています。

 創話と安心を結び付ける理論的背景として、社会学者のギデンズが提唱している「存在論的安心」を考えています。この理論は、社会も含めた安心を考慮しているものですが、ボウルビーが愛着理論で提唱している安全基地も含んでいます。ただ、それだけではなく、世の中でアイデンティティと呼ばれるものも含んでいて、それが創話と結び付いてきます。